ては万事この弁護士を顧問とするがいい。この人は従来しばしば僕等が世話になった人で、こんども多忙のところを、友誼上いろいろと引受けてくれることとなったのだ。そのつもりで相応の尊敬を払って相談するがいい。
 保子はともかく僕の妻だ。僕の意見は大体話してもあり、また手紙で書き送ってもある。したがってその言うことは大体僕の言葉と承知して貰いたい。君はまだ親しくもない間柄ではあるが、僕よりは年上のことでもあり、世路の種々の艱難も経て来てい、ある点ではかえって僕よりも確かなところがある。保子とはいろいろよく打ちあけて話し合うがいい。
 要するに、家の整理はこの二人を僕と見て、そして、猪《いのこ》伯父(たぶん今三保にいるのだろうと思う、もしいなければ除く)母※[#始め二重括弧、1−2−54]その二、三年前に来た継母※[#終わり二重括弧、1−2−55]および君の五人で相談してきめることにしたい。
 僕は元来まったく家を棄てたものだ。かつて最初の入獄の時、東京監獄からそのことを父に書き送ったことがある。父は君にもそれを見せたと思う。しかし僕が家を棄てたのは、それで長男たる責任をまったく抛ったのではない。
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