えどもまた感慨深からざるを得ない。数うれば早や三年、しかもその最初の夏は巣鴨、二度目の夏は市ヶ谷、そして三度目の夏はここ千葉というように、いつも離れ離れになっていて、まだ一度もこの月のその日を相抱いて祝ったことがない。胸にあふれる感慨を語り合ったことすらない。
そしてこの悲惨な生活は、ただちに足下の容貌に現れて、年のほかに色あせ顔しわみ行くのを見る。しかし、これがはたして僕等にとってなげくべき不幸事であろうか、僕に愛誦の詩がある。ポーランドの詩人クラシンスキイの作、題して「婦人に寄す」と言う。
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水晶の眼もて人の心を誘い、
徒らの情《つれ》なさによりて人の心を悩ます。
君はまだ生の理想に遠い、
君はまだ婦人美を具えない。
紅の唇、無知のつつしみ
今やその価いと低い。
君よ、処女たるを求めず、
ただこの処女より生い立て。
世のあらゆる悲哀を甞めて、
息の喘ぎ、病苦、あふるる涙、
その聖なる神性によりて後光を放ち、
蒼白のおもて永遠に輝く。
かくして君が大理石の額《ひたい》の上に、
悲哀の生涯の、
力の冠が織り出された時、
その時! ああ君は美だ、理想だ!
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