降しているぐらいのもので、零度以下に降ったのはただの一度、例の慄え通しに慄えていた時のみだと思う。
しかしこの温度も、いつかの手紙にあったように「ああ、炬燵の火も消えた、これで筆を擱こう」などという、ぜい沢な目から見るのと少しわけが違う。足下等の国では火というもので寒さを凌ぐのかは知らんが、ここでは反対に水で暖をとっている。まず朝夕の二度、汲み置きの冷たい奴で、からだがポカポカするまでふく。そして三十分間柔軟体操をやる。その気持のよさは、とうてい足下輩の想像し得るところでない。折々鉄管が凍って一日水の出ないことがある。そんな時には、したがってこの冷水摩擦ができねば、手足が冷たくて朝起きても容易に仕事にとりかかれず、また夜床にはいっても容易に眠られない。
しかし寒いのももうここ十日か二十日の間だ。やがて「噫、窓外は春なり」の時が来る。
先月の中旬に体重を量った。例のごとく大ぶ減っている。去年の五月の入監の時には十四貫五百五十目あったのが、九月にここへ移って来て十三貫六百目に下り、さらにこんどは十二貫七百目に落ちた。もっともこの最後のには、二日の減食で二百目、四日の減食で六百目という
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