黷ホ時々は志願して来てもいいと思って居ったのに惜しいことです。今日までに噛まれた数と場所とは左のごとくです。警視庁では左の耳の下三。監獄では、左の耳の下二。右の耳の下一。左の頬一。右の頬一。咽喉二。胸一。左の腕四。右の腕三。右の足一。右の手の指一。こんなに噛まれて居ながら、未だにその正体を拝んだことがないので、はなはだ遺憾に思っています。
朝から晩まで続けざまに本を見て居れるものでなし、例の雀もどこかへ行ってしまう、やむを得ずに南京虫に喰われた跡などを数えて時を過しています。時々に地震があって少しは興にもなりますが、これとてあまり面白いものではありません。こんな時に欲しいのは手紙です。
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堺利彦宛・明治三十九年四月
五日、父面接に来り、社会党に加盟せるを叱責すること厳也。予すなわちこれに答えて曰う。「父たるの権威を擁して、しこうしてすでに自覚に入れる児の思想に斧鉞を置かんとす、これ実に至大至重の罪悪也。児たる我は、かくのごときの大罪を父に犯さしむるを絶対に拒む」と。噫々これはたして孝乎不孝乎。しかれどもまた翻りて思う。社会の基礎は家庭也。余社会をして(二字削除)に帰せしめ
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