A巣鴨の同志のことを思えばそう贅沢も言えない訳だ。しかし寒いことは寒いね。六時半から六時まで寝るのだが、その間に幾度目をさますか知れない。それでも日に日に馴れて来るようだ。
この寒い中に二つ楽しみがある。一つは毎日午後三時頃になると、ちょうど僕の坐っているところへ二尺四方ばかりの日がさして来る。ほんのわずかの間の日向ボッコだが非常にいい気持だ。もう一つは三日目ごとの入浴だ。これが獄中で体温をとる唯一のものだ。僕のような大の湯嫌いの男が、「入浴用意」の声を聞くや否や、急いで足袋とシャツとズボン下とを脱いで、浴場へ行ったらすぐ第一番に湯桶の中に飛びこむ用意をしている。
あなたはこの寒さに別にさわりはないか。また巣鴨の時のように、留守中を床の中で暮すようでは困るから、できるだけ養生してくれ。面会などもこの寒さを冒してわざわざ三日目ごとに来るにも及ばない。
もう転宅《ひっこし》はしたか。あんなところではいろいろ不自由なこともいやなこともあろうけれど、まあ当分の間だ、辛棒していてくれ。そして職業なぞのことはどうでもいいからあまり心配をしないで、もう少しの間形勢を見ていてくれ。
留守中、か
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