この日向ぼっこで、どれだけ助かるか知れない。この監獄の造りは、今までいたどこのともちょっと違うが、西洋の本ではお馴染の、あのベルクマンの本の中にある絵、そのままのものだ。まだ新しいのできれいで気持がいい。
仕事はマッチの箱張りだ。煙草と一緒にもらうあの小さなマッチで、本所の東栄社という、ちょうどオヤジと僕との合名会社のような名のだ。※[#始め二重括弧、1−2−54]僕のオヤジは大杉東と言った※[#終わり二重括弧、1−2−55]。一日に九百ばかり造らなければならぬのだが、未だその三分の一もできない。それでも、今日までで、二千近くは造ったろう。ちょっとオツな仕事だ。もし諸君がマズイ出来のを見つけたら、それは僕の作だと思ってくれ。
朝七時に起きて、午前午後三時間半ずつ仕事をして、夜業がまた三時間半だ。寝るのは九時。その間に本でも読める自分の時間というものは、三時の夕飯後、夜業にかかる前の二時間だ。夜業が一番いやだ。
本と言えば、あとの本はまだかな。いつかの差入れは去年中にすっかり読んでしまって、この正月の休みは字引を読んで暮した。何分もう幾度も監獄へお伴して来ている字引なので、どこを開
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