妙な気候なので、内外にいる日向ぼっこ連の健康がはなはだ気づかわれる。あとの二度とも本が郵便でばかり来るので、あるいは足下も寝ているのじゃあるまいかと心配している。八月の千葉での面会の時に、読んでしまった本を持って帰れと言った時も、眼に涙を一ぱいためて何のかのと言いわけする情けなさそうな顔つきは、どうしても半病人としか受取れなかった。
手紙もこれで最後となった。これからは指折って日数を数えてもよかろう。僕の方では毎十の日に本が下るのでそれを暦の一期にしている。まず本が来ると、それを十日分の日課に割って読み始めるのだが、いつもいつも予定の方が早すぎるので、とかく日数の方が足らぬ勝ちになる。したがって日にちの経つのが驚くほど早い。そして妙なのは、この五、六月以来堪えられぬほどそとの恋しかったのが、ここに来てからは跡かたもなく忘れて、理屈の上でこそもう幾日たてば出られるのだとは知っているものの、どうしても感情の上のそんな気が浮んで来ない。何だか今ここにこうしているのが自分の本来の生活ででもあるような気持すらする。しかし何と言っても定めの日が来れば出なければなるまい。
森岡の神様※[#始め二
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