方伯父および伸と謀るとともに、一方母との交渉をして貰いたい。
 かくしておよその話のきまった上で、伯父、母、伸、足下等が集って、判然たる処置をきめて貰いたい。山田は先妻の親戚としてこの相談に直接に与かることを憚るだろうが、右言うようなことなら勿論承知するだろう。また、山田からは別に紀州へも報告を送って大山田の意見をも猪伯父あるいは伸に送って貰えばさらにいい。足下はまた、春および菊の許に詳細の報告をして貰いたい。横浜にいる松枝にも会っていろいろ話して見るがいい。
 別紙弟への手紙も山田に見せてくれ。この手紙は伯父および伸には見せていい。また、必要があるなら母にも見せていい。渡辺弁護士には両方とも見せてくれ。
 万一これで話がまとまらぬなら致し方がない。ともかくも新戸主としてのすべての僕の権利を遂行して、一方財産の離散を防いで置いて、さらに僕の命をまって貰いたい。
 来月の僕の手紙は足下から何とか報知のあるまで延して置く。きのうようやく印鑑が来たという話があった。今、印鑑届および委任状を書くことのお願いをする筈だ。さればたぶん本月中には足下の許に着くだろう。母にも別に手紙を出すといいのだけれど、いろいろ誤解のある間でもあり面倒だから止す。足下からよろしく言ってくれ。
   *
 堀保子宛・明治四十二年十一月二十四日
 先日話した外、なお階行社(軍人団体の会)および、助愛社(愛知県出身軍人の会)から多少の金の来るように聞いていた。もっとも、これは戦時の話で、戦時に限るのかも知れぬが。前者は山田に尋ねたらわかる。後者は三保の家にその規則を書いた小冊子がある。
 父が死ねば自然僕が戸主となって、役場へはその書換えの届けをする筈だと思うが、また父の葬式や何かにもすでにその必要があったのだと思うが、どうなっているのだろう。もしそとでできるのならやって置いてくれ。また、僕の寄留地などもこの際きめて置いたら都合がよかろう。
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 堀保子宛・明治四十二年十二月二十三日
 まだ三保にいるのかと思うが、ともかくも大久保に宛ててこの手紙を出す。表に至急としてあるから、いずれにしても至急足下の手にとどくだろう。
 弁護士からの手紙着いた。いろいろ面倒であったそうだが、母が出てくれることになったのは何よりもありがたい。ついては、さっそくとらねばならぬ処置に関して僕の意見を言おう。
 前に、もし母が出るとなれば来年の三、四月の頃をもってその期としたいと書き送ったが、こんどの母の態度を見ては、この上なお一日といえども子供を委して置くことはできない。すぐさま足下がかわって家政をとり、子供等をみんな引連れて、もしできるならこの暮れ中に東京に引上げたらどうか。
 伸は当分今の地位で辛棒せねばなるまい。将来についてはどんな希望をもっているのか知らぬが、この休み中は東京で一緒に暮すこととして、その間に若宮などに会わせて、よく相談さすがいい。もっとも、やがて徴兵適齢にもなるのだから、愚図愚図してもいられまい。その希望等については詳しく知らしてくれ。
 松枝は横浜のどんな学校にいるのか知らぬが、東京の相応の学校に転校したらよかろう。伸の話では、教会で教育してくれると言っていたが、これもよしあしであるが、もしそんな運びになるなら当分それでもよかろう。いずれにしてもこの休み中は東京で一緒に暮して、みなとよく相談するがいい。僕は久しく会わぬが、もう十七、八のいい娘盛りだと思う。したがって自分でも何等かの考えもあり望みもあるだろう。それらも詳しく知らしてくれ。
 勇は下宿から家に越して来て、家から今の学校に通ったらよかろう。僕はその学校の性質をよく知らぬから、こんどその規則書を手紙の中に入れて送ってくれ。また、勇の今後の希望なども知らしてくれ。これはちょっと思い浮んだ考えではあるが、来年学校を卒業したら、伸とともにアメリカへ行ったらどうかと思う。若宮などと相談してみよ。
 進はどんな条件でどんな状態で今のところにいるか知らぬが、この際家に引取るがいいと思う。他の幼い二人については、伸が何とか言うていたが、これも山田とかその他の肉親のもので世話するというならともかく、やはり家で育て上げようじゃないか。
 しかし、いずれにしてもまず金がいる。弁護士からの手紙で見れば、借金の外には目下何等の金もないようだ。ただ望月からは半額に減じてすぐ取れるように書いてある。しからばまずこれでいろいろ処分をせねばなるまい。葬式の費用というのは幾らか知らぬが、これと他の四百円という借金を払い済して、なお東京へ引上げる費用が残ってくれればいいが、もし不足するようなら、紀州の山田から借りるがいい。また、今後の生活費も来年の六月にならねばはいって来ないわけだが、その間はいるだけを同じく山田から借りねばなる
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