、三度はきっと眼を覚すが、気がついた時にはもう何かたべ物のことを考えている。寒くて眼がさめるのだか、腹がへって眼がさめるのだか、ちょっと分らない。
が、何のかんのと言ううちに、あすからはいよいよ放免の月だ。寒いも暑いも彼岸までと言うが、そのお中日の翌日、二十二日は放免だ。どうかあまり待たずに早くその日が来てくれればいいが。
下らんことばかり書いて、肝心の用事を書く場所がなくなってしまった。仕方がない。すぐ面会に来てくれ。そして、そちらからの手紙はそのあとにしてくれ。魔子、赤ん坊、達者か。
昨日は近藤を無駄に帰して済まなかった。手が凍えてとても書けないのと、あのペンにはもうインクがはいっていなかったのだ。本の背中の文字は野枝子に偽筆を頼む。
うちのみんなに宜しく。
今二時が鳴った。日向ぼっこももう駄目だ。また今から屈伸法だ。しかし寒さじゃない痛さの辛辣さも、先月の雪以来少しは薄らいだようだ。そしてまた飯を待つんだ。さよなら。
底本:「大杉栄 選 日本脱出記・獄中記」現代思潮社
1970(昭和45)年7月10日初版
※誤植の疑われる箇所は、「大杉栄書簡集」大杉栄研究会編、海燕書房、1974(昭和49)年12月15日発行と対照し、同書に正しいと思われる表記があった場合に限り、本文を修正した上で、底本との異同を当該箇所に注記しました。
※「(二字削除)」などの丸括弧付きの箇所は、底本では割注(二行)になっています。
※底本では、「市ヶ谷から(三)堀保子宛・明治四十一年七月二十五日」の冒頭「……」の部分のあとに、「前文紛失してなし」という編者註が書かれています。
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:小鍛治茂子
校正:林 幸雄
2004年3月29日作成
青空文庫作成ファイル:
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