を競うている。そして、この花間を蒼面痩躯の人達が首うなだれておもむろに逍遙している。僕は折々自分のからだのはなはだ頑健なのを嘆ずることがある。色も香もない冷酷な石壁の間に欠伸しているよりは、むしろ病んで蝶舞い虫飛ぶの花間に息喘ぐ方が、などと思うことがある。帰る頃にはコスモスが盛んだろうということだが、ここにもコスモスは年の終りの花王として花壇に時めく。お互いにこのコスモスの咲く頃を鶴首して待とう。
去年の春は春風吹き荒んで、揚花雪落覆白蘋、青鳥飛去銜赤巾というような景色だったが、ことしの春の世の中はどうだったろう。いずれ面白い話がいろいろあることと想像している。
兄が近所に来てくれたので家のことはまずまず安心した。こんどの兄の子は男か女か。兄の細君にもいろいろ世話になるだろう。よろしく。進※[#始め二重括弧、1−2−54]三弟※[#終わり二重括弧、1−2−55]の腕白には大ぶ困らせられたようだね。人間の子を育てるのはお雛様や人形を弄ぶのとは少し訳が違う。もし足下等の女の手に自由自在になるような男の子なら、僕はその子の将来を見かぎる。教育の要は角をためることでなくして、ただその出る方向を指導することにある。進はかつてその容貌もっとも僕に似ると言われていたが、あるいはその腕白もそうなのだろう。それにあの子は少し吃りやしないか。よくもいいところばかり似るものだ。その後学校の方はどうなったか。勇は何かしでかして家に来られないようになっているとのことだったが、まさか今なおそんな事情が続いているのではあるまいね。彼は今、少年期から青年期に移る、肉体上および精神上に一大激変のあるもっとも危険な年頃にある。そして出づれば工場の荒い空気の中、帰れば下宿屋の冷たい室の中、というはなはだ情けない、そしてはなはだ危険なところにある。休日などにはなるべく家へ来て、一日なり半日なりの暖かい歓を尽させてやってくれ。
伸の徴兵検査はどうなったか。弟妹等一同に留守中の心得というようなものを書きたいと思ったが、許されないので致し方がない。五カ月の後相ともに語るまでおとなしく待つよう伝えてくれ。
こんどの秋水等の事件について二つお願いがある。一つはかつて巣鴨の留守中に借りた三十円の金をこの際返してもらいたい。こんな時にでも返すのが、返す方でもはなはだ心持よし、また返される方でもはなはだありがたか
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