もし母が出るとなれば来年の三、四月の頃をもってその期としたいと書き送ったが、こんどの母の態度を見ては、この上なお一日といえども子供を委して置くことはできない。すぐさま足下がかわって家政をとり、子供等をみんな引連れて、もしできるならこの暮れ中に東京に引上げたらどうか。
伸は当分今の地位で辛棒せねばなるまい。将来についてはどんな希望をもっているのか知らぬが、この休み中は東京で一緒に暮すこととして、その間に若宮などに会わせて、よく相談さすがいい。もっとも、やがて徴兵適齢にもなるのだから、愚図愚図してもいられまい。その希望等については詳しく知らしてくれ。
松枝は横浜のどんな学校にいるのか知らぬが、東京の相応の学校に転校したらよかろう。伸の話では、教会で教育してくれると言っていたが、これもよしあしであるが、もしそんな運びになるなら当分それでもよかろう。いずれにしてもこの休み中は東京で一緒に暮して、みなとよく相談するがいい。僕は久しく会わぬが、もう十七、八のいい娘盛りだと思う。したがって自分でも何等かの考えもあり望みもあるだろう。それらも詳しく知らしてくれ。
勇は下宿から家に越して来て、家から今の学校に通ったらよかろう。僕はその学校の性質をよく知らぬから、こんどその規則書を手紙の中に入れて送ってくれ。また、勇の今後の希望なども知らしてくれ。これはちょっと思い浮んだ考えではあるが、来年学校を卒業したら、伸とともにアメリカへ行ったらどうかと思う。若宮などと相談してみよ。
進はどんな条件でどんな状態で今のところにいるか知らぬが、この際家に引取るがいいと思う。他の幼い二人については、伸が何とか言うていたが、これも山田とかその他の肉親のもので世話するというならともかく、やはり家で育て上げようじゃないか。
しかし、いずれにしてもまず金がいる。弁護士からの手紙で見れば、借金の外には目下何等の金もないようだ。ただ望月からは半額に減じてすぐ取れるように書いてある。しからばまずこれでいろいろ処分をせねばなるまい。葬式の費用というのは幾らか知らぬが、これと他の四百円という借金を払い済して、なお東京へ引上げる費用が残ってくれればいいが、もし不足するようなら、紀州の山田から借りるがいい。また、今後の生活費も来年の六月にならねばはいって来ないわけだが、その間はいるだけを同じく山田から借りねばなる
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