の建築と設備とをもって模範監獄の称のある、日本では唯一の独房制度の千葉監獄に移されることになった。
 千葉は東京に較べて冬は温度が五度高いというのに、監獄はその千葉の町よりももう五度高いというほどの、そして夏もそれに相応して冷しい、千葉北方郊外の高燥な好位置に建てられていた。
「あれがみんなの行くところなんだ。」
 汽車が千葉近くなった時、輸送指揮官の看守長が、ちょうど甥どもを初めて自分のうちへ連れて行く伯父さんのような調子で、(実際この看守長は最後まで僕等にはいい伯父さんだった)いろいろその自分のうちの自慢をしながら、左側の窓からそとを指さして言った。みんなは頸をのばして見た。遙か向うに、小春日和の秋の陽を受けて赤煉瓦の高い塀をまわりに燦然として輝く輪喚の美が見えた。何もかもあの着物と同じ柿色に塗りたてた建物の色彩は、雨の日や曇った日には妙に陰欝な感じを起させるが、陽を受けると鮮やかな軽快な心持を抱かせる。
「鰯がうんと食えるそうだぜ。」
 僕はすぐそばにいた荒畑に、きのう雑役の囚人から聞いたそのままを受け売りした。幾回かの入獄に、僕等はまだ、塩鱈と塩鮭との外の何等の魚類をも口にした
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