つかって来たんですよ。みんなが、あなたの来るのを毎日待っていたんですって、そいで、今新入りがあったもんですから、きっとあなただろうというんで、ちょっと聞いてくれって頼まれたんですよ。」
「君のお隣りの人って誰?」
僕は事のますます意外なのに驚いた。
「○○さんという焼打事件の人なんですがね。その人と山口さんが向い同士で、毎日お湯や運動で一緒になるもんですから、あなたのことを山口さんに頼まれていたんです。」
「その山口とはちょっと話ができないかね。」
「え、少し待って下さい。お隣りへ話して見ますから。今ちょうど看守が休憩で出て行ったところなんですから。」
しばらくすると、食器口を開けて見ろと言うので、急いで開けて見ると、向う側のちょうど前から三つ目の食器口に眼鏡をかけた山口の顔が半分見える。
「やあ、来たな。堺さんはどうした? 無事か?」
「無事だ。きのうちょっと警視庁へ呼ばれたが、何でもなかったようだ。」
「それや、よかった。ほかには、君のほかに誰か来たか。」
「いや、僕だけだ。」
と僕は答えて、ひょいと顔を引っこめた山口を「おい、おい」とまた呼び出した。
「ほかのものはみんなど
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