ニエント・シンプル・ライフ!」
と僕は独りごとを言いながら、室の左側の棚の下に横たえてある手拭掛けの棒に手拭をかけて、さっき着かえさせられて来た青い着物の青い紐の帯をしめ直して、床の中にもぐりこもうとした。
「がみんなはどこにいるんだろう。」
僕は四、五日前の市民大会当日に拘引された十人ばかりの同志のことを思った。そして入口の戸の上の方についている「のぞき穴」からそっと廊下を見た。さっきもそう思いながら左右をきょろきょろ見て来た廊下だ。二間ばかり隔てた向う側にあの恐ろしい音を立てる閂様の白く磨ぎ澄まされた大きな鉄の錠を鼻にして、その上の「のぞき穴」を目にして、そして下の方の五寸四方ばかりの「食器口」の窓を口にした巨人の顔のような戸が、幾つも幾つも並んで見える。その目からは室の中からの光が薄暗い廊下にもれて、その曲りくねった鼻柱はきらきらと白光りしている。しかし、厚い三寸板の戸の内側を広く外側を細く削ったこの「のぞき穴」は、そとからうちを見るには便宜だろうが、うちからそとを窺くにはまずかったので、こんどは蹲がんで、そっと「食器口」の戸を爪で開けて見た。例の巨人の顔は前よりも多く、この
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