たぶん僕もそうと信じ切っている。当時の新聞に、僕が大阪で路傍演説をしたとか拘束されたとか、ちょいちょい書いてあったそうだが、それはみんなまるで根も葉もない新聞屋さん達のいたずらだ。
その他、こういう種類のお上の御深切から出た「検束」ならちょっとは数え切れないほどあるが、それは何も僕の悪事でもなければ善事でもない。
とにかく、僕のことと言うとどこででも何事にでも誤解だらけで困るので、まずこれだけの弁解をうんとして置く。
初陣[#「初陣」はゴシック体]
「さあ、はいれ。」
ガチャガチャとすばらしい大きな音をさせて、錠をはずして戸を開けた看守の命令通りに、僕は今渡されて来た布団とお膳箱とをかかえて中へはいった。
「その箱は棚の上へあげろ。よし。それから布団は枕をこっちにして二枚折に畳むんだ。よし。あとはまたあした教えてやる。すぐ寝ろ。」
看守は簡単に言い終ると、ガタンガタンガチャガチャと、室じゅうというよりもむしろ家じゅう震え響くような恐ろしい音をさせて戸を閉めてしまった。
「これが当分僕のうちになるんだな。」
と思いながら僕は突っ立ったまままずあたりを見廻した。三畳敷ばかりの小
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