も見廻って、その受持看守から、「索引」をかりて、それとみんなの顔とを見くらべて歩く。「索引」というのは被告人の原籍、身分、罪名、人相などを書きつけたいわばまあカードだ。
「お前はどこかで見たことがあるな。」
 しばらくそのせいの高い大きなからだをせかせかと小股で運ばせながら、無事に幾組かを見廻って来た老看守は、ふと僕の隣りの男の前に立ちどまった。そしてその色の黒い、醜い、しかし無邪気なにこにこ顔の、いかにも人の好さそうな細い眼で、じろじろとその男の顔をみつめながら言った。
「そうだ、お前は大阪にいたことがあるな。」
 老看守はびっくりした顔付きをして黙っているその男に言葉をついだ。
「いや、旦那、冗談言っちゃ困りますよ。わたしゃこんど初めてこんなところへ来たんですから。」
 その男は老看守の人の好さそうなのにつけこんだらしい馴れ馴れしい調子で、手錠をはめられた手を窮屈そうにもみ手をしながら答えた。
「うそを言え。」
 老看守はちっとも睨みのきかない、すぐにほほえみの見える、例の細い眼をちょっと光らせて見て、
「そうだ、たしかに大阪だ、それから甲府にも一度はいったことがあるな。」
 とま
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