は、今はもう詳しくも覚えてゐないし、又ここでそれを発表する自由を持つてゐさうもない。
 僕は演壇から下りた。委員のHは閉会を告げた。すると、いつの間にかはいり込んでゐた刑事共が、委員等をつかまへて、僕の演説の筆記を渡せと強請んでゐる。僕は直ぐに、速記者の筆記を奪ひ取るやうにして取つて、ストオヴの中へ入れて了つた。そして呆気にとられてゐる刑事共をあとに残して帰つた。
 あとで聞くと、警察では其の手ぬかりを掩ふ為めにいい加減な報告をしたので、其の筋でも従つて学校でも大した問題にならずに、ただ危険人物の僕を呼んだと云ふかどで委員が辞職しただけで事は済んだ。



底本:「日本の名随筆 別巻17・遺言」作品社
   1992(平成4)年7月25日第1刷発行
入力:ゆきこ
校正:菅野朋子
2000年6月3日公開
青空文庫作成ファイル:このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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