う若者が一人混っていて、おどけた表情でバンド一座の采配《さいはい》を振っており、その様子がいかにも粋人のなれの果てと云いたい枯れた手腕を発揮していた。ホールの客の興奮が次第に昂《たか》まりのぼって熱して来たとき、突如として外から一団の娘たちが繰り込んで来た。そして、ホールの人人のサッと裂け開いた中へ流れ込むと、時を移さず急調子に鳴りひびいたバンドに合せ、踊り撥《は》ねる小鹿の群れのような新鮮な姿態で踊りつづけた。みな揃いの空色に、黄色な肋骨《ろっこつ》をつけた騎兵の服装で、真赤なズボンに黒い長靴を穿《は》いていた。顔にかかる滴りの飛び散るような鮮かさだった。
「この子らは市の踊子で一番権威を持っているのです。ハンガリヤの踊りです」
と、ヨハンは云った。この十人ほどの踊りはいろいろに変化したが、間を保たせず、閃《ひら》めき変り、飜《ひるがえ》ってゆく調子の連続に訓練のこもった妙味があった。踊子らも選《え》りぬきと見えそれぞれに優劣の差のない、揃った清潔な感じがした。手穢《てあか》の染まぬ若い騎兵の襟首《えりくび》の白さにちらりとほの見える茎色の艶《つや》があった。実に眼醒《めざ》めるば
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