いもあって、会うとやはり懐しかった。それでも東野と並んでいる彼女の背後に久慈の姿が絶えず纏いついて放れず、話すにしても、真紀子との間に久慈がいてこそ感情の連絡も維持された習慣も、急にそれが東野に移っている変化は何かにつけ当分具合も悪かった。またそれに気附いている真紀子も、いつもと違った遠慮がちで、話も双方ともに滑らかに辷らなかった。
 すきやきの鍋を、真紀子と東野、そして、千鶴子と矢代と二つに頒けた。鍋がそれぞれ熱くなり油の面にしみ崩れて来たころ、東野はセーヌ河の岸にあった有名な鴨店の鴨と食べ較べてみて欲しい、ここのは勝るとも決して劣っていない味だと云って、誰より先きに一人喜んだ。一同が黙っていると、鴨の食べ方を説明して、みなのはなっていないと非難しつつ、おろしに入れる醤油の差し方、手ごろな柔かさの味加減をいちいち細かく看守っていて指図した。東野の訓えるままにして食べたものは、なるほどどの肉も味が数倍上等だった。
「これで少し、もう季節が過ぎているからね。ほんとに、一月二月のを食べさせて上げたいのだが。」
 東野は自分の作のように残念がりつつも、鍋の下の炭加減にまで注意しつづけ、他のも
前へ 次へ
全1170ページ中998ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
横光 利一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング