と、みな人は気に入らないんだよ。主観的だというのさ。しかし、客観的にどうなって見たところで、結局は同一性という主観的なものからは脱けられないよ。天上天下唯我独尊に落ちつくこと、そこが人間知識の相場市場だ。」そう云って東野は少し黙った。そして、また紙を巻きながら、「僕はこの水と字を貰ってからいつも考えたね。これはやはり日本の神さまも向うへも行っていらっしゃるということだと、大真面目で思ったんだがね。そうでなくちゃ、僕には世界というものを感じる感覚能力も無くなるんだからね。ところが向うのものはまた向うで、自分のところの神さまを同様に考えるだろう。そういう人間感覚の較べようの不可能な世界へ、科学がぬっと顕われて客観塔という同一性の抽象塔を建てたのさ。まア、建てられるだけは、建ててみるのも良いだろう。あれは人間が退屈したんだよ。賽の河原というところだね。」
「それじゃ、カンフル注射はせずとも良いでしょう。」と矢代は軽く笑って云った。が、ふと見たヨルダンの水はこのときはもう普通の水に見えて来て、よしッと矢代は思い、これでようやく一日の危機を脱したと思って喜んだ。ところが、彼の何気なく云ったその一
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