しても、彼は東野の素知らぬ顔のまま不意にこちらを落すいつもの癖に、脅やかされたそれだけ反動もまた鎮りかねるのだった。それも矢代には分っていることだとしても、まだ内心胸を突かれておどおどしているに相違ない千鶴子が、少し彼には気の毒になって来た。しかし何はともあれこんな日に、偶然二人を攻める道具の揃った東野の宅へ来合せたということは、二人にとって幸運か不運かまだ彼には分らず、何かとしきりに云いたくなるのだった。「あなたもクリスチャンですか。」と矢代は、もう切開された傷口から古ガーゼを抜き出したくなって、こちらから訊ねた。
「いや」と東野は暫く黙っていたが、「これをくれた人の子供さんを一寸お世話したことがあってね、そのお礼だよこれは。」
「しかし、こういう、まアいわば結構な言葉を貰われてどうですかね、そのときの気持ちは。」と矢代は、千鶴子の悩みの整理も兼ねた逆襲の態勢も次第に加わって来るのだった。
「僕は別にどうとも思わなかったね。しかし、これを欲しいとこちらから望んだわけでもないときだったから、いよいよ僕にも来たかと観念したよ。そうだろう君。誰にだって一度は来るからな。そりゃ、ただ事ではな
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