た。そして、その他に何か云わねばならぬ重要事項がひしめいているように思われるのに、一応隈なく探して見て後も、何もなく、その他はぼんやりとただ他人に任せて置くべきことばかりのように思われ、彼は沼の周囲の垂んだ鉄柵の鎖を眼で追いつつ、なお云うべきことを考えてみた。暫く二人の黙っている前で、鯉がぐるりと尾で泥を濁しあげては廻游して行く水面に、閑かに春の日が射していた。
「母もあなたのことはもう気附いている風なんだが、それも僕からあらためて云ってみて、それから東野さんに仲人を頼みたいと、こう考えてるんですがね。どうですか、ゆっくりしてるようだが、しかし考えてみると、まだあなたとお会いしてから一年よりたっていないんですからね。一年じゃ少し早すぎるとも云えるですよ。」
「でも、ゆっくりなさる理由は、お父さんの御不幸だけでしょう。」
 千鶴子は、矢代の浮き浮きとしない様子に物足りなさを覚えた視線で訊ねた。彼はそうだと答えた。そして、いま少し自分も浮き立つべきだと思ったが、蘆の嫩芽の微風にそよいでいる物静かな沼の光りに、我ながら憎くなるほど落ちつきが出てしまい、却って、千鶴子に対し気の毒な遠慮のある思
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