リの風景画をさして云った。
 画はパンテオン附近の裏小路らしい風景だったが、崩れない確実な筆触の美しさは佐佐の頑固さと同時に、明澄な純粋さを保持しつづけようとして苦しんでいる、彼の性格もよく現した絵だった。
「とにかく色調に細やかな愛情が出ているところを見ると、どうも、自分の部屋から始終眺めた景色らしいな。」と矢代は絵に対ったまま云った。
 佐佐は「うむ」と口重い笑顔で頷いて、自作と再会した嬉しさを白い歯に見せ、椅子にかけてもまだ絵から視線を放そうとしなかった。部屋の隅にグランドピアノがあり、壁に添った棚には由吉の趣味と見える陶器が幾つも置いてあった。一つはアフリカの器らしい厚手の水指と、支那の慶磁の白い湯呑、それに日本物では紫野の茶碗、その横に朝鮮の鶏龍の蓋物の鉢が一つ。中でも鶏龍の別毛鉢が一番優れて美しかったが、それらの選択の仕方には、特に大物をさしひかえた凝り性の滋味な統一が伺えて愉しみぶかい選択だった。
 千鶴子がお茶とお菓子を持って来た。家人はもう寝たと見え庭に射し込む灯影がどの部屋からのもなく暗かった。千鶴子はまた引っ込んで出て来たときには、今度はチーズとビールを擁えて来た
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