りに皆と一緒にエレベーターの口まで行こうとしたとき、軽く後から矢代の肩を打つものがあった。見るとそれは久木男爵だった。
「君、今晩ここで泊ってらっしゃいよ。先日お約束の電報を上げようと思って、田辺さんにあなたのところを調べていただいたところが、御不幸があったということで、つい遠慮をしました。どうも御愁傷さまで。」
 と男爵は、もういつもの笑顔に戻り穏やかなお辞儀をした。
「有りがとうございます。」
 矢代は尋常にこのとき返礼だけは出来たが、それでもぼッと熱気に蒸されたような困迷を覚え、却って落ちつき払ったように身体がそこに突き立ったままだった。
「しかし、もうお暇も出来たでしょう。お父さまの御病気は?」とまた男爵は優しく訊ねた。
「脳溢血です。」
「ほう、それじゃお名残り惜しいですね。お幾つでした。」
「七十一です。」
「じゃ、わたしとあまり違いませんね。そろそろわたしにも廻って来ますかな。」
 気軽く笑いつつも微妙な変化を示す男爵の前にいると、矢代は、ふと自分の中に父もともにいるような重圧を感じ、生前男爵に抱いた父の気持ちがそのまま姿勢にまで加わろうとするのだった。彼の頭の高さも父か
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