違えるように美しくなるなアとそう思ったが、君、芭蕉の思想なんて、なかなかどうして、あれは孔子以上だぜ。静寂でいてそのくせ千変万化するところは、どこかベルグソンにも似ているし、御幣にも通じるし。」
「ところがまた、俳句界ほど論争の多いところは、世界に稀だよ。」
東野の言にテーブルの周囲は一時にまた笑い崩れた。しかし、それは笑いとともに捨て流せぬ、俳句以外の重大なものに通じる心として矢代の胸に残って来るのだった。男爵も同時にそれを感じたらしく、ひとり大きく頷きながら云った。
「一番静かなものの中が、一番論争が激しいというのは、そりゃまた日本だね。」
「あれは論理と心理の極致に花を咲かせようとする念願なんだからね。つまり、やっぱり御幣をいただくための斎戒さ。不浄があってはならぬから論争する。しかし、それは何もわれわれの論争にしたって、日本人のする論争ならすべて、結局はみな斎戒だよ。戦争にしろ平和にしろ、よく考えてみると等しくみなこれ斎戒さ。それ以外にはないのだよ。悪だって善だって、漫才だって、玉乗りの果てに至るまで日本人はそうなんだから、まア、とにかく、僕らにしてもやっと御幣の傍へ帰りつい
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