感動が伝わって遽しく往来がつづいていった。白い歯が間断なく洩れたり消えたりした。しかし、船が停ってから乗客の降りて来るまでが、これが面倒な時間がかりだった。
「僕もあなたのこうして帰られるとき、出迎えに来るんだったなア。しまった。」
と矢代は千鶴子に云った。そして、また東野と真紀子の方に対って帽子を振った。千鶴子もそれには黙ってただ手巾を振っていたが、そのうち船中の人に自分を知らせたくて夢中に後方から押しつけて来る群衆に圧せられ、だんだん矢代の方へ押し竦められて来るのだった。しかし、それは二人にとって思いがけない仕合せなことだった。むしろ千鶴子は群衆の力を頼みとして、自分が前に船でこの港に入港して来るとき、出迎えの中に矢代の不在だった物足りなさを、今ここで取り戻そうとするような、無量の思いの噴出して来た機会とも見えたが、またそれは、たしかに千鶴子だけでなく、矢代にも同様の空想が暫くは消えない充実した一刻に変って来ていた。もう気羞しさもなく、躊躇もない、許された日の灯火の下でめぐり合った二人のように、物狂わしい幸福感で互に一層温められた。港港で浴びた潮の香の思い出さえ、時を得た花に似て
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