った。
「いやア、どうも突然なものですからね、いろいろ行き届かぬことがありまして、失礼しました。」と川奈も淡白に笑い、窓ガラスに映った自分の髪の形を手で直した。
 霊柩車を先頭に間もなく三台の車がつづいて行った。行く途上も邪魔物に遮られて車は離れたり見えたりした。雑沓した街の中で再び父の棺を見あてたときは、矢代は、まだ父がこの世にいたように思われてほッと気易さを感じ、市中無事でいてくれた暫くの会う間を、まだこんなときにも喜ぶのだった。
 火葬場に同じような数台の霊柩車が停っていた。それらは街から蒐められて来たように無造作により固り、そのあたりだけ人が誰もいなかった。見事な紅梅の老木が花をつけて咲き誇っている下で、柩同士ひそひそ何ごとか囁き交しているような風情のその中へ、また矢代の父の柩も首を混えた。
 矢代たちは当てられた茶屋へ入って休むことにした。もうここでは先へ急ぐ何ごともなく終点の上で茶を飲む気楽さがあって、出る談も至極のどかなことばかりだった。矢代も皆に寛いで貰いたく沈まぬように心掛けて、自然と浮いた談を選ぶ風にした。
「前には、こういうところで暮す人も、よくいるものだと思った
前へ 次へ
全1170ページ中865ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
横光 利一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング