宰府に流した暗さだったが、些細なこととはいえ、矢代は幼少のころから、お前は天神さんの御命日に生れたのだと母から聞かされていたために、特に道真のことは矢代の気にかかった。母にせがみ梅を庭に他の樹より多く植えて貰ったのも、一つは道真の好きな梅が伝染ったからでもある。今、時平の父の名とともに泛ぶ庭の梅に、音たてて降る雪の冷たさも、彼の記憶のうすら寒さとなり、一抹の憂鬱さを沁み込ませて来るのだった。
「しかし、まさか先祖はあの時平の父の基経ではないだろう。」
 矢代は父が寝てしまってからも、自分の書斎でひとり呟き、基経、時平あたりの歴史書を急に開いてみたりした。すると関白基経の生んだ穏子から二人の天皇までお生れになっているのが分り、これは有り難いことだと、俄に彼は清水を含んだ思いに立ち返って、暗怪な時平に代り、その妹の穏子の方の身の上を想像しながら、夜更けまで藤原北家の流れの行方を尋ねていった。しかし、父の云った基経は、まさか穏子の方のあの親ではないだろうと、今度は前とは逆で、寂しく西海の波のまにまに漂っていった田舎藤氏の末を、長い旅の愁いのように崩れた郷里の城砦を渡る松風とともに眺めるのだっ
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