困ったことだ。」と矢代は母を省みて笑った。
「お前は今日は、百姓したそうだね。」と突然父は訊ねた。
「どうも先祖のしたことも知らずにいちゃ、罰があたると思ったもんですから、一寸真似をしただけですよ。しかし、あれは気持ちの良いもんですね。こんなことも忘れていて、何を今まで考えていたんだろうと、今日は少少後悔しましたよ。それはそうと、僕の家の一番古い先祖の名は、分ってる範囲ではどういうところですか。」
「藤原基経だ。わしの親父は、子供のころそう云うていつも聞かしてくれたが、嘘か本当か知らないよ。」
父の郷里から発行されている郡誌を読み、そこに書かれたこと以外にまだ家の歴史を知らなかった矢代には、基経というその名は初めて聞くことだったので、意外な無作法をしていたように改った気持ちになるのだった。
「藤原基経というと、時平の父のあの基経のことですか。最初の関白の。」
「それはどうだか分らないね。しかし、名前だけはそうだった。」と父はさも興味なさそうな声で答えた。
しかし、矢代は二度と訊くこともない父の一言の答えのように思われなお胸にその名を呟いた。恐らく祖父も曾祖父も今自分が父からこうして
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