これでわしも、日本のトンネルの難工事というのは、随分仕上げて来ているんだぞ。福島から会津へぬけるトンネルがあるだろう。あれは難工事で、わしも初めてぶつかったものだから、あのころは夜もろくろく眠れなかった。それから難しかったのは、碓氷峠だ。あれは難しかった。その次は大津から山科へぬける疏水で、その次は宇治川の水電だったね。」
父にも酒が少し廻って来たと見え、子の前でむかしを偲ぶ自慢もそろそろ出始めた。矢代はこのときを機会に父の自慢談をなおよく聞き出して置きたく思い、父の盃に酒を忘れずに注ぐのだった。
「久木さんとこの会社には、いつごろまででしたか。」
「碓氷トンネルを仕上げるまであそこで御厄介になった。どうもわしは短気者だったから、命令通りにしては仕事の進行は危いと分ったので、反対をしたのだ。ところが、会社の方はわしの云うのを取り上げてくれなかったものだから、とうとうトンネルは潰れた。それでまたわしが命ぜられて仕上げたのだが、それと一緒に会社も止めさせて貰った。」
固そうな白い鬚に父の表情は隠されていたが、直接に見たこともない父の才腕も、微笑を含んだ眼もとに冴え光るものの走るのを眺め
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