やや皮肉な微笑を洩して云った。
「そうじゃないよ。それや、そこは君には分んないさ。」
「でも、あたしの眼は間違っちゃいないわ。案外ねあなたも。」
 少し薄睨みでみち子がそう云うまで、傍にいたものらは、二人のすらすらと早く運ぶ会話に聞き惚れるようにしんと黙っていた。矢代もふとパリにいる久慈と真紀子の二人も今ごろは、眼の前の遊部とみち子のような話をしていそうに思えて、暫くは二重の興味で聞いていたが、遊部の会話がそこで途切れてしまうと、由吉は惜しそうに、「何んだ、それだけか、もっとやれやれ。」と遊部の片腕を掴んで引きよせようとしたので、そのまま話は一同の笑いの中に壊れてしまった。
「今夜はこの二人を帰らせないことにしようじゃないか。」と速水が云い出した。
「いや帰るよ帰るよ。」と遊部は真面目に狼狽の色を泛べて腕の時計を一寸見てから、隣室へ一人立って行くと、軽くシューマンの協奏曲らしいものを叩いてみていた。みち子も何かまだ云いたいことがあると見え遊部の後を追っていったが、間もなくピアノを聯弾する二人の間からひそひそした声が洩れて来た。
 矢代は今夜の侯爵邸の夜会の意味には、さまざまな好意が含ま
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