いう学ぶ方だね。」と由吉はそろそろまた冷やかし始めて笑った。
「それはそうだ。僕は音楽を勉強しにパリへいったんだよ。」
遊部は突嗟にそう答えたものの、しかし、どこか由吉の鋭利なひと突きには応えるものがあったと見え、びくっとした戸迷うものの薄笑いを洩して肉を食べた。
「勉強しに、パリへ行ったものはごろごろしているが、遊びに行ったのは僕と侯爵とたった二人か。これや、ちょっと気味が悪いね。侯爵、何んとか一言いいなさいよ。あなただってロンドンじゃそう道徳派でもなかったんだからなア。」
由吉は黙っている田辺侯爵の方を顧み、誰にも通じぬ笑顔でひとりからからと高く笑った。
「僕は道徳派さ。」と侯爵は一言云ったきりやはり黙って何も云わなかった。
矢代は侯爵夫人の美しい顔色が幾らかさッと動くのを見ると、いつか見たことのある侯爵家の先祖の壮麗な城が一瞬光を揚げて頭に泛んだ。そのとき彼は一寸千鶴子の方を眺めてみたが、千鶴子はにこにこ笑った視線を彼に向けて黙っているきりだった。
葡萄酒に赧らんだ顔が、白い卓布の上から鮮かに顕れて来たころ食事は終った。客たちは隣室へ移っていってそこでまた雑談が始った。
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