ひどく気に入った。
千鶴子の部屋は壁一面に薔薇の模様のある六階の一室だった。窓を開けると、公園から続いて来ているマロニエの並木が、若葉の海のように眼下いっぱいに拡って見えた。その向うにパンテオンの塔と気象台の塔とが霞んでいる。
「この木の並木は藤村が毎日楽しんで来たという有名なあの並木ですよ。あれからもう二十年もたっていますから、そのときから見れば、随分この木は大きくなっている筈ですよ。」
と矢代は説明して、
「このすぐ横にリラというカフェーがありますよ。ここへも藤村が毎日行ったということですから、ひょっとすると、このホテルは藤村のいたホテルかもしれませんよ。」
「じゃ、リラへ行ってみたいわ。」
と千鶴子は嬉しそうに窓から右の方を覗いてみて云った。荷物の整理と云っても何もないので、三人はすぐホテルを出ると夕食までルクサンブールを散歩しようということになった。
「でも、あたし、さきにリラへ行きたいわ。」
「もうリラなんか昔語りでつまらんですよ。あそこは老人ばかりで、集ってるものが皆ぶつぶつ云ってるだけだ。」
久慈はそう云うとひとりマロニエの並木の下へさっさと這入っていった。枝を
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