代さん、東野さんとお会いになりまして。」
と侯爵夫人は穏やかな声ながらも、少し突然に聞える問いで矢代を見た。
「ええ、いつも御一緒でした。何んでもロンドンへいらしたらしい消息が知人からありましたが。」
と、矢代は答えた。この夜これが矢代の云った最初の言葉だった。
「東野さんて、東野重造君のことですか。」
と久木男爵が、これもこの夜初めて矢代の方を向いて訊ねた。
「そうです。」
と矢代は一言答えただけだった。
「東野君とわたしは一度、横浜から大阪まで船で旅行したことがあるんですよ。そのときは四五日一緒でしたが、途中名古屋のゴルフリンクで、わたしはあの人にゴルフを教えたのですがね。そうですか。今ロンドンですか、あの人。」
久木男爵は感慨のある微笑で矢代の顔をじろじろと見詰め始めた。
「僕たち若いものはよくあの人に叱られました。あの人は僕ら若いものの中心問題へ、いきなり飛び込んで、張り手を使ってひっ掻き廻す名人なものだから、東野さんに会った日は土俵から抛り出されたみたいになって、二三日僕らは眠れなくなるんですよ。」
一同フォークの音の中で一緒に笑った。その笑声の鎮ったころ、久木男
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