代になったとき、そのものらに仕事を全部まかせてしまったものですから、今は楽ですよ。午後の三時ごろまではまア、会社へ出ておりますが、後の時間はもう全部芸術に使っているのですがね。わたしは自分を実業家だなどとは思っちゃいないので、自分は何んだろうと考えると、やはりわたしは芸術家だと自分を思いますね。実業よりも芸術に専心しているときの方が、わたしの性分かもしれぬが、気持ちが美しくなって一番真面目になれますからね。」
日本の実業家連中から親玉のように見られている久木男爵のひそかに洩らしたことが、そういうことを云いたかったのかと矢代は面白く思い、聞き捨てにならぬ美しい心の一面だと解した。画家の佐佐も傍で何か感動したものがあったと見え椅子の背の上で体を動かした。
「じゃ、作曲は今でも毎日されるんですか。」
数学や作曲によく専心する久木男爵の噂話を、由吉も知っているらしくそう訊ねた。
「一日に少しはどんな日もやりますが、それよりも、やり出すと、どこかへ旅をして、一部屋へ一週間ばかりわたしは籠るのです。そのときは朝から人をよせつけません。やはり、そうしてじっと心が澄んで来ないと、雑事がちらっとでも
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