た。その中の一番最近にパリから帰って来たという若い外交官が、傍の佐佐という画家に突然云った。
「そら、あのクーポールにいたスペイン人のボーイね。よく僕らの傍へ来た男があるじゃないか。あれがね、新聞を見ていて僕に、もうこうしちゃいられない。自分の方は負けて来た、いよいよ自分も祖国へ帰って戦う、と決然として云ったよ。どうもあれは、反フランコ派の方らしいんだが、しかし、どっちにしたところで、僕はそのときのあのボーイの顔色には驚いたね。決死の色だったよ。」
 一同は暫く言葉がなかった。矢代は黙って聞きながら、クーポールにいたスペイン人の顔をあれこれと思い泛べるのだった。そして、もし自分の国がそんな状態になったなら、自分もやはり千鶴子のことなどもう考えてはいられなかろうと思った。パリにいる当時、たとい嘘だったとはいえ、日本と中国とが戦争状態に這入ったというニュースの大きく出たことがあったが、自分も帰って直ちに戦う覚悟をしたその日のことを思い出した。そして、そのとき第一に頭に泛べたことは、ある誰か詠人の分らぬ衆人の中にひそんだ歌だった。
「おん前に捧げまつらん馬曳きて峠を行けば月冴ゆるなり」
 矢
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