うことだよ。これが分れば、戦争など起るものか。」
「そんなら僕らは何に信頼出来るというのだ。僕たちの信頼出来る唯一の科学まで否定して、君はそれで人間をどうしょうと云うのだ。」
 傍に千鶴子がいるので今日の争いは手控えようと矢代は思っていたのだが、しかし、久慈は矢代に食いつかんばかりに詰めよった。矢代はそれを引き脱した。
「君はヨーロッパまで出かけて来て、そんな簡単なことより云えないのかね。科学などということは、日本にいたって考えつけることじゃないか。」
 久慈はさッと顔色が変ると顔の筋肉まで均衡がなくなった。
「君はそれほど知識を失ってしまって得意になれるというのは、それやもう、病気だ。病気でなければ、そんな馬鹿な、誰でも判断出来る認識にまで反対する筈がないじゃないか。」
「僕は君の云うことを、間違っていると云うんじゃないよ。そんな、誰にでも分っていることなど、何も君からまで聞きたくないと云うだけだよ。分りきったことを、間違いなく云えたって人間この上どうともなるものか。」
「そんなら、君みたいに間違いを云えと云うのか。」
「僕の云うことは、君のような、科学をまじないの道具に使うものには
前へ 次へ
全1170ページ中80ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
横光 利一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング