れた無気味さが、胸に擬せられた刃となって消えなかった。彼はその光った尖を見詰めて脱さず、絶えず何ものかに立ち対う気持ちがつづいて夜になった。が、もし千鶴子と結婚すれば、いつもこんな刃と対う日日になるのだろうか。しかも、それが自分の先祖の城を滅ぼしたものだとは――。
夜が深まって来ても矢代には笑うに笑えぬ重苦しさがつづいた。月の鋭く冴えた谷底の方で雪の崩れ落ちる音がしていた。矢代はストーブに薪を投げ込み、部屋をいつもより暖くして湯気を立て、陽気に気持ちを引立ててみることに努めてもみた。しかし、安土、桃山から五十年の間日本の多くの優れた頭を悩ませたその刃であった。また、明治から今まで七十年の間、同様に優れた人人の胸に突きつけられ、今もなおどちらを向こうとも面前に立ち顕れ、「不徳漢」と狙って来る精神の白刃であった。
それも日本人のみならず、世界のどこの国の人間も、一度はそのような目に会わされ、また以後生れて来るどんなものも、おそらくこれからは避け得られそうにもない刃だった。
「異端者か。なるほど――」と矢代はまた呟いた。
実際、この一ことの言葉を云われたために、どれだけ多くの人人がこれ
前へ
次へ
全1170ページ中774ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
横光 利一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング