。」
 矢代はもう半ば冗談のつもりで云って笑った。すると槙三は急にぴたりと微笑をとめて黙ってしまった。
「外国にも逆まんじがありますが、あの形は日本の言霊の原型図と似ていますよ。あれは日本では生命力というものの拡がりを幾何学化したものだということを、外国人は知っているのか知らぬのか、そこはまだ僕には分りませんが、恐らくは何かもっと違った理由があることでしょう。」
 槙三はこのときだけ「うむ」と低くひとり頷いた。しかし自分の護っている学問の世界だけは微動もさせまいとする薄笑いが、再び彼の唇から洩れて来た。


 次の朝矢代は小屋から温泉へ行った。千鶴子の部屋を覗いて見ると、槙三だけがまだよく眠っていたので起さず、彼は湯へ引き返した。濃霧がいつもの朝のように浴場に立ち籠めていて、昨日雪の中へマスクを捺しつけていた三人の婦人の声だけ、特別喧しく耳に聞えた。
 矢代は湯の中に千鶴子のいることを感じていた。昨日の朝はどういうものか浴場で顔を合したくはなかったのに、今朝は間もなく別れて千鶴子が帰るためもあって、その前に二人きりで話したく思い、絶えず彼は霧の底からあたりを見廻した。槙三から離れてただ
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