良かった。」
千鶴子は気晴れのした手つきでお茶を淹れ、矢代の前に出した。しかし、槙三だけは食事が終ってからまだひとりにやにや笑ってばかりいた。
「しかし、さっき仰言ったようなことで、近代人が満足出来るものですかね。」
暫くして、壁に靠れた槙三は茶を飲みつつ云った。
矢代を揶揄する風ではなくとも、明かにどこか彼に失望を感じた正直な声だった。
「満足なんて幸福は近代人にはないのですよ。」と矢代は云った。「ギリシアの幾何学だって、イウエ、みたいな三つの辺からなる三角形が根本でしょう。言葉だって同じで、五十音のどんな音にしても、イウエの三つの母音にすべてが還って来るということを、日本の古代人は知っていたのですよ。それから数というものが考えられたことですね。ですから僕は、ギリシアの文明は三角形から発展したに反して、日本の文明は三音からだと思うようにも単純になってるんです。あなたも一つ、新しい物理学の仮説を創ろうと苦心されるなら、この音と形との原理を一つにして、時間というものの素質をもう一度、エッと云ってみて、考え直されることですね。そうすると近代人の満足というものが得られるかもしれませんよ
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