。」
 千鶴子は山の頂の方をほッと開いた軽い笑顔で見上げた。頂の雪だけ明るくオレンジ色に染め残した峡間に、ますます濃い薄暗が迫って来た。
 矢代はこちらから云い出そうかと思っていたことを、そんな自然な表現で千鶴子から切り出して来てくれたのは、何か母との間にいよいよ話せぬ溝の深まりが生じて来たためかと思った。それを彼に覗かせたくもない彼女の苦心の一方に、またいくらか、彼に知らせねば自分の躊躇の理由も伝わらぬ思案の末の工夫かと思うと、矢代も感動を覚えて千鶴子の見上げている同じ山頂を仰ぐのだった。
「しかし、あなたのお母さんの方は、そんなことで納得されるんですか。僕は暫く無理はされない方が良いかと思うんですがね。」
「ですからあたしもそれを考えてるんですの。お母さんは少しむずかしいものだから、何んだか分ってくれないところもあるんですのよ。」
 千鶴子は山の頂からすぐ真下の路上に眼を降ろして伏し眼になった。炭俵と蜜柑を積んだ手橇が一台人もなく雪路に停っていた。そこへ餡パンを啣えた宿の小さな子供が出て来て、手橇の柄を掴み、それを動かしてみようとしてうんうんと力み出した。
「お父さんの方はどうです
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