らずに結婚をしてしまっては、法華を信じる自分の母との衝突のあることなど先ず予想していても、その間に挟まる自分の態度に、以後困ることが生じる惧れがありそうだった。しかし、彼は結婚するとしても、何かそこにもまだ冒険を好む心のあるのを感じ暫く胸中の声を聞く慎しみで立っていた。が、ふと急に彼は煙草を捨てて呼吸を殺し、土手の雪の中へ顔を捺しつけた。灼けつくような冷たさの頬に刺し込んで来る中から、明るい玉が幾つも入り乱れ、弧を描いては浮き流れて消えていった。すると、それが暫くつづいていてから最後の乱れた玉の中を、夢で見た千鶴子が幽かに赧らんだ顔で斜めに態を崩して、振り返りざま飛び去って行くのを感じた。矢代はそこで呼吸が切れて来たので顔を上げた。
「何んだったのだろうあれは。」
彼はまだ灼けている頬をオーバーの片袖で拭いて空を見上げた。彼は暫くしてまた雪の中を歩いていったが、古事記の中で夢を見て行動を起された尊たちのことが思い出されて来ると、玉の緒に巻かれて飛び去った千鶴子の夢の姿の美しさは、何か結婚の慶びをともに祝ってくれた諦めかと思われて矢代は嬉しかった。
宿へ着いてから欄干よりのテーブルに
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