のときであって、ルネッサンスの取り入れた科学をギリシアのように頭として使わず、自分の手足として使う能力を養う工夫に、今は全力を尽すべきだと思うのだった。
矢代は書物を伏せて時計を見ると、もう十一時近かった。彼はあわててストーブに薪を投げ入れ、鶏の腹にバタを詰め込んで丸焼にとりかかった。金串に刺した鳥肌が火の上でじじッと脂肪を垂らす音を聞きながら、彼は千鶴子と槙三に御馳走をするその前に、ルネッサンスの中核を嗅ぎあてることの出来た午前を、山小屋に来た甲斐があったと喜んだ。それはまことにほのぼのとした白光の世界を望む思いのする、午前のひとときの喜びだった。
人間の知力というものを人の持ちものの最低のものと観破した聖トマスの謙虚さが、つまり、あの見事なルネッサンスの花を咲かせたのだなア、しかし、今の東洋にはそれ以上の謙虚さが根柢に残っている。それが良いのだ。とまた彼は胸中でひとりこんなに呟いて感服し反省した。
そう云えば、聖トマスという英語はフランス読みに換えるとサン・トーマとなる。サン・トーマ寺院はルクサンブール公園から数町とへだたらぬ所にあった。一度千鶴子と二人でこの寺院を矢代も訪れ
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