うものか、死んだ父が漢学者なものだから、せめてお前だけは俺の知らぬものをやってみよと、そんなに云ってるように思えてね、それで僕はこんなカメラとフランス語とをやってるんだと思ってるんだが。」
「そこまで知っていてやる人なら、まア僕らのすること少しは赦されるんだと思うんだ。しかしたいていはそうじゃないよ。僕はやはりそれが心配だ。巴里祭の日に君が殴られたのなんて、あれは君、それを知ったものと、知らぬものとの間に君は挟まれて、両方から殴られたのさ。そして、シャッタを切ったのが、つまりこれだ。」
 と矢代はそう云いつつ写真の中からサンゼリゼの激動の場をめくりあて、塩野に差し出した。
「君は知らないだろうが、このときの君の顔を、ちゃんと僕は君の親父さんに代って見てるんだよ。無我夢中で君は飛び上っていたよ。真ッ青になって、横っちょになって、――あ奴、やりよるなアと思って僕は見てたものだ。おやじだよ僕は。」
 塩野は「ふふッ」と笑みを洩してまた暫く写真を眺め直した。
「思い出すなア。このとき中田教授は僕の傍で、日本がこうなられちゃ、これやたまらんと呻いたが、どうしているかなアあの人。」
 中田という政
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