あたくしはキリストさまをお忘れすることなど出来ません。どうぞこんなことを書きましてもお赦し下さいますように、――」
 矢代はここまで読んで来たとき、先夜のあの喜びに充ち溢れた千鶴子とは違い、この千鶴子は何んと悲しい声ばかり出す人だろうかと、矢代はそこで気疲れを感じて一寸空を見上げ、また暫くしてから読みつづけてみた。が、それはも早や、誰かにいのちを奪われてしまっているような千鶴子の歎きのみ綿綿とつづいているばかりだった。矢代は読み終ってからも、彼女を悲しませているものは、かき消えぬ西洋の幻影だろうか、それともキリストか、あるいは先夜のあの自分の結婚のためであろうかと考え込み、細川忠興の勇しくキリストと戦いつづけて踏み停っていた凛然たる苦しさが、今さら強くしのばれて来るのだった。


 まだ菊のあるのに木枯の日がつづいた。停留所でバスを待つ間、よく矢代の仰いだ欅の大樹も葉を吹き落され裸身になった。ところどころに残った枯葉も余命のつきた危いそよぎを見せ、彼の仰いでいるまも、一葉ずつ風に※[#「てへん+毟」、第4水準2−78−12]ぎ浚われてかき消えた。しかし、この樹は雨の日のときにはまた別に
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