だった。
 電車が有楽町に着いたとき、矢代は階段を千鶴子と並んで降りながら、ふとまた侯爵の城郭の壮麗な鳶色が頭に泛んだ。そして、今日はやはりあの鳶に自分は負かされたと思い、半日の自分の喜劇ももう笑うことが出来なかった。


 その日の夜、矢代は夕食を千鶴子と一緒に摂って、午後の九時ごろ新橋の駅で別れひとり家に帰って来た。すると、夜の明け初めるころになって彼には何んとも分らぬことに出会ってしまった。それはいつものように、自分の部屋でただ一人眠っていたときに見た夢だったが、しかし、それは夢とはいえ、また夢ともまったく違っていた。千鶴子が彼の横の別の夜具の中に寝ていたのである。矢代は誰かに赦されて千鶴子と事実の結婚式を上げよと命ぜられたように思った。そのとき、充血して来た彼女の口中から清水が湧き出し、それは非常に美しく、見るまに千鶴子の嬉嬉とした顔色は、いつもと違って全身小麦色になると、はち切れそうな筋肉の波が、力強い緊迫で温度を高め始めて来た。
 矢代は眼が醒めてから暫くまだ夢の実体に触れている思いだった。すべては夢だったのだと彼は幾度も思ってみた。しかし、朝日の光りをはっきりと認めても、
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