来る声を聞きつつ矢代は短い眺望の楽しみを邪魔される愁いよりも、彼女の不機嫌の恢復して来た早さに、少し不満も感じて来るのだった。彼は千鶴子のさきまでの不機嫌の原因を、彼女の頭の中からカソリックの崩れゆく様の表れと解し、ひそかに自分の苦心の効きめを喜ぶ勇みもあったときだけに、自分の言葉の強さが、反対に却って、千鶴子を鳶に誘惑された身体と表現した拙劣さの手伝うところだったと気がついて、自然に楽しみもまた半減した。しかし、また考えれば、長年の彼女の信仰が、自分のたったあれだけの苦心で、そんなに脆く動揺を来すものとも思われず、もしそのときがあるとするなら、おそらくそれは結婚以後のことかもしれないと思うのだった。
 それにしても矢代は残念だった。殊に千鶴子のカソリックを自分の方へ引きよせる戦法に、自分の貧しい自然科学の知識を倦くまで用いねばならぬのだと思うと、彼はそれだけでも歯痒さを感じた。それも自分の先祖の滅ぼされた原因が、カソリックよりむしろ自然科学のためであるだけに。――なおその上不思議なことは、近来の物理学の全趨勢そのものの容態の傾きが、漸次カソリックを応援する方向に徐徐に向きつつあること
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