一寸どうかしてるなア。」
と塩野は云いながら、ズボンのポケットから煙草を探した。しかし、いよいよ千鶴子が来ると分ると、矢代は急に元気が出て思わず饒舌になりかけた。
「それや、君、帰ったばかりだから、どうかしてるのは誰でもですよ。そのうち君だって、どうかなりますからな、用心しないと入院しますよ。」
「ふむ、入院するかな。」
と塩野は一寸考える風に眼鏡をせり上げた。
「とにかく、入院するしないは別として、必ず妙なものがやって来る。訳の分らぬものが、無茶苦茶に自分を押し倒して、馬乗りになって来る。」
「ふむ、来ますか。」
塩野は小首をかしげたかと思うと、「はっ」とかすかに声を立てて笑った。二人はバスの停留所の手前まで来てから立ち停った。
矢代は今までにもここの停留所へ来るごとに、幾度となく仰いだ眼の前の欅の大樹をこのときも自然に仰ぎ、幹が巧みな別れ方で、それぞれ枝となってゆく見事な様子にいつもながら感服した。別れる所へ来て別れるという単純な美しさが、それぞれ別れたまま空を支えつづけている姿が、彼を捉えて放さなかった。
「僕らは天罰を受けてしまった。どう仕様もない。潔く罰を受けて仕舞い
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