手なところへ出てまた廻る癖があるので、自然矢代も妹にだけは言葉を濁す癖があった。
「帰りたいと思ってるんだけど、急いでまた悪くなるの恐いから、当分は動かないつもりなの。」
 幸子はそう云ってから、毎日ここから海を見ては矢代のことを想像して愉しんだと話した。ミラノで買った革製のハンドバッグや、パリの財布、ベニスのショールなど、矢代の出した土産物を手にとって妹は面にも嬉しさを顕した。矢代は東北の湯治場のことや滝川家のことなどをあれこれと話したが、外国のことについてはあまり云い出そうとしなかった。
「日本海を見てここへ来ると、太平洋の明るさは特によく分るものだね。北の方はもう秋雨がひどいよ。」
「どこが一番良かった?」
 知りきった東北のことより外国のことを何より訊きたいらしい。幸子の眼つきは、何かに飛びつきそうな光りだった。矢代はそれが不愉快で幾らかいやらしく感じたが、それもやむを得ない病人の歓びかもしれぬと思い、
「そうだなア。」と云いながら、窓から麓の漁村を見降ろして一瞬ヨーロッパの風景を頭に泛べた。
「そこにいるとき良い所と、後で思い出してから良くなる所とあってね。一口では云えないも
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