た自分を思い出した。しかし、今のこの野人の爽かな身震いは、ソロモンの栄華の極みだに野の百合にも及ばざらんと歎じた、聖書の文句の意味となり、彼にはある特別な感動を伴って激しく貫き透って来るのだった。
「パンがもう焼けてますよ。」
 と母は庭から戻って来た矢代に云った。朝食を急激に和食に変える辛さを母は想ったものか、彼女から矢代にそう訊ねたとき、朝だけはパンにしたかったいつもの癖が出て、うっかりパンと答えてしまったが、今の彼にはこういうことも自己批判めいた種となって、一途に烈しく和色に偏してゆこうとする自分の保守さ加減も、まだ徹底出来ぬのだと思った。
「パンか。」
 テーブルに向い、トーストを裂いて食べながらも、矢代は妙に自分の中で争うのだった。それは丁度、争いの種子を噛み摧き、嚥み下すような調子だったが、しかし、これからいちいち食い物までこんなに気になって来ては、これは堪らないとまた自分に抵抗もした。殊にカソリックの千鶴子にこの次ぎ会ったときの自分を想像すると、異国で見たときとは異り、思いがけない二人の違いを発見しては、互に遠ざかるばかりかもしれぬと、さらに苦しみも増すのだった。なおその
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